(44) カギを握るのは近江二郎か?

ずいぶん前に「キーマン 鈴村義二」のタイトルで3回連続の投稿をしました。

旧杉田劇場のオーナー・高田菊弥が、劇場立ち上げにあたって、浅草の芸能界と通じていた鈴村義二に相談していたという話から、鈴村が杉田劇場のキーマンだと思っていたのです。

実際に鈴村は杉田劇場に関わっていたわけですから(杉田に住んでいたことは昭和30年代の住宅地図から判明している)、キーマンというのは間違いではないのかもしれませんが、判明してきた事実を積み重ねていくと、意外にも鈴村義二の影はだんだんと薄くなっていくのです。

開場当初は鈴村が劇団や役者のブッキングなどで力を発揮していたのではないかと想像できますし、美空ひばりを抜擢した時にも彼の審美眼が決定打となったはずです。

ですが、少なくとも大高一座が座付きになって連続公演を始めてから、さらには大高の急死で劇場運営が迷走を始めたあとは、鈴村よりも終戦までの横浜演劇界を背負っていた日吉良太郎一座の残党あたりが中心に動いていたようにさえ感じられるのです。


実は、調査を重ねる中で、日吉だけではなく、大高がかつて出演していた一座の座長、近江二郎も大きな影響力を発揮していたのではないかと考え始めています。

それを裏付けるように、これまで情報はないものと思っていた昭和21年1月、杉田劇場の開館当初の新聞広告に、近江二郎の名前が見つかったのです。

昭和21年1月22日付読売新聞(神奈川版)より

つまり、近江二郎は同年3月、弘明寺・銀星座の開場記念興行より2ヶ月も前に、すでに杉田劇場の舞台に立っていたのです。

(個人的にはかなり重要な大発見です!)

前述の通り、大高よし男は、前名・高杉彌太郎時代に近江二郎一座に参加しています。それどころか一座の座員だったかもしれません。

大高よし男が杉田劇場の専属劇団の座長になるにあたって、近江二郎が関わっていたと考える方が自然な気すらしてきます。


片山茂さんの証言には「昭和21年2月に入り、大高ヨシヲ劇団の出演依頼があり」とあります。

一方で、広告によると、近江二郎一座は昭和21年1月26日から10日間(2月4日まで)杉田劇場で公演しています。大高がやってきたとされる「2月に入り」というのは近江二郎が杉田の舞台に立っていた時期と重なるわけです。

この時の近江二郎一座に大高よし男が参加していたか、少なくとも、この公演を大高よし男が見にきていた可能性は大です。

つまり「2月に入り」という証言の時期が正しければ、杉田劇場には確実に近江二郎と大高よし男が一緒にいたのです。

旧知の二人のはずだし、大高からすれば近江二郎は師匠か大先輩にあたる人です。大高がひどい不義理でもしていない限り、一種の師弟関係があったといって間違いありません。

その関係性からすると、近江二郎が劇場オーナーの高田菊弥やプロデューサーの鈴村義二に大高を売り込んだとも考えられます。

銀星座の柿落とし(開場)は3月23日ですから、時期的にすでに近江二郎は銀星座の話を受けていたでしょう。

杉田は大高に任せ、自分は銀星座で、車の両輪のようにこの地域の演劇を盛り上げる。そんな計画を提案したとしても、なんら不自然ではありません。


さらには、以前「横浜の大高よし男」の投稿で妄想したように、ともに井土ヶ谷に住んでいた日吉良太郎と近江二郎。戦前の剣劇や大衆演劇のことを書いた本などでは、両者ともに名前の挙がる人です。お互いに知らないわけはありません。町内ですれ違うこともあったでしょう。もしかしたら、互いの家を行き来していたかもしれません。

その両者が戦後の横浜演劇界のこと、日吉一座の残党や近江一座の面々の生活を考え、銀星座に日吉一座残党による「自由劇団」、杉田劇場に大高よし男を中心とした「暁第一劇団」をつくり、彼らの生活を守ろうと相談していたとしても、これまたなんら不思議ではありません(それが正しければ大高一座に日吉一座の残党がいる理由も説明がつきます)。


キーマンは鈴村義二のつもりでいましたが、どうやらカギを握るのは近江二郎なのかもしれません。

近江二郎と日吉良太郎、終戦間際からのこの二人の動きを探ることが、杉田劇場と大高よし男の真実に迫るキーになることは間違いなさそうです。


余談ながら、上記広告にある「片山明彦」は戦前から映画の子役として活躍していた俳優で、後年、美空ひばり主演の映画『伊豆の踊り子』(1954)にも出演しています。その後は70年代まで数々の映画やテレビドラマに出演、2014年に88歳で没しています。

杉田劇場は常設劇場としては、わずか5年で閉場してしまいますが、この舞台に立った人たちが、戦後の芸能界を支えたのだといっても過言ではありません。


→つづく

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

うめちゃん

うめちゃん さんのコメント...

スマホで入力するとうまくいきません。パソコンからやり直し。入場料が3円90銭だったんですね。

管理者 さんのコメント...

ありがとうございます。料金がわかるのはかなり貴重なデータですね。