(95) 同成座の登場

大高よし男が亡くなって1年半。昭和23年3月の杉田劇場に「同成座」が登場します。

1948(昭和23)年3月2日付神奈川新聞より

この劇団名の頭には「朝川浩成 鳩川すみ子の」が付いていてますが、両名は以前にも紹介した通り、戦前・戦中は日吉良太郎一座の座員として活躍していた俳優です。

昭和12年9月18日初日 長野相生座・日吉良太郎一座のパンフ

特に朝川浩成は人気が高く、曾我廼家五郎一座にも「曾我廼家幸蝶」の芸名で参加していました。
1943(昭和18)年2月8日付神奈川新聞より

昭和13年6月から横浜歌舞伎座での連続公演が始まる前の日吉一座は、伊勢佐木町の敷島座を拠点とし、夏場は信州巡業、それ以外は横浜、という興行スタイルでした。

もともと信州や甲州での人気が高く「信州の団十郎」とまで言われた日吉良太郎ですが、横浜での人気も絶大で、日吉一座が夏巡業を終えて帰浜しただけで、新聞に大きく取り扱われたほどです。

1935(昭和10)年10月2日付横浜貿易新報より

その劇団に所属して大活躍していたのが、朝川浩成と鳩川すみ子。

終戦から3年近くたったこの時期に、かつて横浜で人気を誇っていた日吉劇の看板俳優が一座を組んで、杉田劇場に登場したというわけです。

同成座は「どうせいざ」と読むのでしょう。もしかしたら「どうなる?」の語呂合わせだったのかもしれません。朝川と鳩川が組んだらどうなる? というような洒落が含まれていたとも考えられます。

もっとも、逆に「どうせいざ」のつもりが「どうなるざ」と誤読されていた可能性もあります。理由はわかりませんが、次に登場するときには記名が「同生座」に変わっているのです。

いずれにしてもこの劇団名には「同じ日吉劇出身」というニュアンスを感じます(大高一座の藤川麗子も日吉劇のメンバーでしたから、同成座には藤川麗子も参加していたかもしれません)。


さて、この時は「映画と実演」というスタイルの公演で、同時上映は黒川弥太郎主演の映画です。

黒川弥太郎については以前にも書いたとおり、杉田(というか正確には杉田の隣町の中原)出身の映画スターです。ご親戚の方がやっておられる南区の「弥太郎最中本舗」が有名ですが、生家の所在地など、詳しいことがまだわかりません。南区のご親戚のほかにもご親戚がいらっしゃって、少し前、現杉田劇場にお話をいただいたようですが、その後、連絡が途絶えているので、もしこのブログをお読みいただいているようでしたら、またお知らせいただけると幸いです。


ちょっと話が脱線しました…

黒川弥太郎の映画と一緒に上演された2本のうち、『妻恋道中』は時代劇の名作としてたびたび上演されて映画にもなっていますが、もう一本の『吾が子を尋ねて』は「神奈川縣警察部提供」という不思議な肩書きのある作品です。

実はこれ、昭和21年11月に銀星座で上演されていた作品の再演なのです。「神奈川縣警察部」とはありますが、つまりは「大岡警察署」のことでしょう。

1946(昭和21)年11月12日付讀賣新聞より

銀星座ですから上演したのは専属の自由劇団です。

これがどんな内容なのかはよくわかりませんが、大岡警察署の桑名甲子次(広告には「甲子」とありますが正しくは「甲子次」のよう)が書いた芝居で、「事実哀話」とあることから、実際の事件なり事故なりを扱ったドキュメンタリー芝居だったと考えられます。

これも前に書きましたが、昭和22年11月には同じく桑名甲子次による『この妻を見よ』という「実話防犯劇」が、やはり銀星座で自由劇団によって上演されています。この時にははっきりと「脚色 日吉良太郎」と書かれているので、おそらく前作『吾が子を尋ねて』にも日吉良太郎がなんらかの協力をしていただろうと考えられます。

「同成座」は日吉良太郎一座の残党による劇団であるだけでなく、日吉良太郎自身が関わったと思しき作品まで上演しているのですから、戦後、表だった活動をしていなかった日吉良太郎が、こういう形で戦後も影響力を行使していたのではないかというのが僕の見立てです。

当初は近江二郎の影響が強かったと思われる銀星座も杉田劇場も、この頃になるとすっかり日吉一座が席巻する小屋になっていた印象です。近江一座の文芸部員で、大高一座の支配人でもあった大江三郎は新聞や雑誌などの記録では、もう影も形も感じられません。

そういう意味でも大高の死は、この地域の演劇シーンに大きな影響を与えたのでしょう。


というわけで、今回は昭和23年春に登場した「同成座」と日吉良太郎の影響について書いてみました。



→つづく


「大高ヨシヲを探せ!」第一回投稿は
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〔お願い〕大高よし男や近江二郎など、旧杉田劇場で活動していた人々についてご存知のことがありましたら、問合せフォームからお知らせください。特に大高よし男の写真がさらに見つかると嬉しいです。

2 件のコメント:

うめちゃん さんのコメント...

長野相生座の公演で、田谷力三と藤原義江と見間違える役名が出ていますね。なんか関係ありそう。

FT興行商社 さんのコメント...

喜劇ですから、パロディということでしょうね。どんな芝居だったのか興味深いです。